諸々の法は影と像の如し
終章
 それから二日後。
 章親は惟道のいる局に行ってみた。
 惟道は部屋の前の簀子に座り、庭を眺めていた。

「惟道殿、具合はどう?」

 声を掛けると、惟道はゆっくりと顔を章親に向けた。
 相変わらず、全く表情のない能面の額に、斜めに走る傷跡が付いている。

 元々なかなか整った顔立ちなのに、それをぶち壊すほど、額の傷跡は醜い。
 扇で切り裂かれただけではなく、抑えられていたあらゆる呪が一気に破れたのだ。

 その影響で、相当な力が加わったのだろう。
 切り傷に加え、焼け焦げたような傷が広がっている。
 頭にそのような衝撃を受けたのだから、意識がなかなか戻らなくても仕方なかったのだ。

 加えて首筋にも傷跡がある。
 鬼の牙で傷が付いたのだが、章親のように食いつかれたわけではないので、さほど酷くはない。

 ただ章親の傷は酷くても肩なので、着物で隠れるが、惟道の場合は首筋なので隠れない。
 ぱっと見ただけでわかる傷が二か所もあり、今後の生活に影響があると思われた。

「道仙殿のことは、聞いてる?」

 惟道の横に座りながら、章親は口を開いた。
 僅かに惟道が頷く。

「鬼もね、魔﨡が滅してくれたよ。道仙殿は間に合わなかったけど、惟道殿が食われる直線に。道仙殿には気の毒だったけど」

 ぼんやりしている惟道の横で、とりあえず章親は経緯を説明した。
 道仙のことに対しても、惟道の表情に変化はない。
 ただ、ゆるゆると手を己の額にやった。
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