迷い風
no.1

電車のエアコンが腕の表面を冷たくした
車掌さんの低い声のアナウンスと
電車が走る音しかしない
夏の昼間の電車の中

この電車に乗ったのは初めてだ

つい一か月前までは東京の大学に通って
何週間前までは都会へインターンシップのために通っていた

毎日のように隙間のない電車に押し込まれて
人の波に逆らわないように歩いていた

だからこんなに静かな電車に乗ったのは久しぶりで
いつもはそんなことないのに
電車の中にいる人を眺めたり
広告を見たり
窓の外を眺めたりしながら
ただぼーっとして電車に乗っていた

いつもならスマートフォンにかじりつきで
そんなにも仲良くない知り合いと楽しくメッセージのやり取りをしていただろう

もう何もかもが疲れてしまった

電車の走る音が急にうるさくなって
やがて止まった

「青昌駅~、青昌駅~」

電車のドアから出て
新たに見えた青色と緑色の景色に入ると
熱い水っぽい空気が私を包んだ




08月17日

私は昨日までの私を思い出さないために
この場所で生活することを決めた
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