俺様オヤジの恩返し
「…10年前。
西藤先生が私の演奏を聞いた当時、実は私はボロボロだった筈なの、変だな…。
ボロボロになっていても、子供といる時と弾いてる時は楽しかったけどね…」


私は、もういいや話しちゃえって思ってしまったんだ。
一人で抱えて墓まで持って行こうと思っていたけど、後で口外しないって約束してもらおう。


甘い考えで生きていた私が、子連れで離婚して、男に借金踏み倒されて、風俗に入って…。

子供の頃からの音楽中心の生活と、シングルマザーの20年、その内の10年の風俗勤務を(前述とほぼ同じ様に)話した。






「そうやって育てて貰った息子は嬉しいだろうか」


「嬉しくなくても、もう育て終わっちゃったんだよね」


「その不倫相手は、うまく逃げたと思ってるだけなんじゃ…」


「うん、そうだね、きっと」


「老後のために、なんて、別にやらなくてもいいんじゃない?」


「お一人様は大変だよ?
西藤先生は安心していられるかも知れないけどね。
まだまだ貰われ手もありそうだし」


「再婚すればよくないか?」


「相手がいればね。
言ったでしょ?風俗やりながら誰かと付き合うことはできないの」


「辞めればいい。橘理恵子は音楽家であって、風俗嬢じゃない!」


「情けないことにね、私は音楽家で、さらに風俗嬢なんだよ」


「辞めろよ!!」




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