時涙ー携帯が繋ぐ奇跡ー
500年越しの食い違い
あれから何日か経ち、私達は何度か電話のやり取りを繰り返し、お互いのことを呼び捨てで呼び合うまでになっていた。

「あのさぁ、授業中に電話掛けないでっていつも言ってるでしょ!?今日、先生に取り上げられたんだからね!」
「それは茜が悪いと思います、"まなーもーど"とか言うやつにしとけば良かったのですよ。」

そう、今日私は授業中に携帯が鳴ったせいで、先生に取り上げられた。
あと5分で授業が終わるところだったのに…、なんでたったの5分を我慢できなかったのか不思議でならない。

しかも用件と言う用件は無し。
ただ単に「暇だから」と言う理由だった。
「大体、授業中は駄目と言われましても…コッチからじゃ、茜がいつ授業受けてるかなんて分からないです。」

まぁ確かに、それは一理ある。
時の流れが違うのなら、そんなの分かるはずがない。

「…分かりました、これからはマナーモードにしておきます…。」
「茜と僕が言い争いになったって、結局は僕が勝つんだからやめといた方が身のためです。」
私の言い方で、どうやら拗ねていることに気付いたらしく、小さく笑い声を零しながら言う。

その笑い方が相変わらず子供っぽくて、こちらまで笑いそうになってしまう。
とりあえず、この前の件で竹中半兵衛だと言うことを信じたが、私が基から思っている竹中半兵衛とはイメージが大きく異なっていた。
私が思う歴史上の人物とは、おじさんだけど威厳があって渋い…と言った感じの、如何にも教科書に載っていそうなイメージで…、この竹中半兵衛みたいに無邪気で子供っぽいイメージなんて、全くと言っていい程無かった。

だからだろうか、見た目が妙に気になったのは…。
この無邪気で子供っぽい喋り口調の竹中半兵衛。普通に想像するなら、少年と言ったところだろうが…もし、私のイメージ通りのおじさんとかだったら…?もの凄いギャップだろう。
そう思うと何だかワクワクしてきて、自然と口を開いていた。

「ねぇ、私…半兵衛の顔見てみたいなぁ。」
「は…、はい?え…それって…」

返ってきた反応は予想通り、驚きを露にしたものだった。
「いや、僕は全然構わないんですが…、見せられないですよね?」

半兵衛の言う通り、時代が違う二人が顔を直接見せ合うのは不可能だ。
だけど私達には携帯電話がある。
お互いに写真を撮って送ればいい。
「半兵衛が持ってる携帯でさ、写真送ってよ。」
「………?」

良いアイデアだと自信満々にそう伝えたものの、半兵衛は無言のままだった。

「あの…、半兵衛?」
「あ、何です?」
電話が切れてしまったのかと再度呼び掛ける。
すると今度はちゃんと返事が返ってきた。
電話が繋がっているのを確認した上で、先程の言葉をもう一度伝えてみる。

すると、暫く無言だった後に、やっと返事が返ってきた。
「送る、って?どうやってです?やり方分かんないです…。」

そうか…、確かに、今まで私がこの携帯電話について教えたことと言えば、電話に関係することだけだ。メールや写真添付の仕方なんて教えたことがない。
半兵衛は現代の人ではないのだから、分からないのは当たり前の事だった。
「じゃあ、教えるからその通りに送って。」

そう言って写真添付の仕方、ついでにメールの打ち方を半兵衛に話した。
半兵衛はただ頷いているだけで、分かってくれているのか微妙なところだったが、電話の仕方等も簡単に覚えた半兵衛のことだ。心配はいらないだろう。

「って感じかな。分かった?」
「うむ、覚えたから平気です。」
私が全てを説明し終えた後、念のため半兵衛に確認をすると、自信満々に返事が返ってきた。

聞いているだけでよく覚えられるものだ。さすが天才、とでも言ったところか…。

「じゃあ、後で送るから待っててください。」
半兵衛がそう言ったのを最後に、私達は電話を切った。
一回教えただけでは、手間取ってそんなにすぐに送られてくることはないだろう。
と言った私の考えとは裏腹に、すぐに携帯が鳴りだした。

あまりの早さに驚きつつも、メールに添付されている画像を開く。

そこに写っていたのは、あの声に相応しい程の儚げな美少年だった。
歴史上の人物…威厳…渋いおじさん…。
私の中のイメージが全て崩れ去った瞬間だった。

「うわー…、凄い整った顔してるなぁ…。」
写真写りが良いにしたって、綺麗すぎる顔。まるで女の子みたいな…。

半兵衛が美少年だと十分確認した上で、次に写真に写っている周りの風景に目を移す。

見た感じ、畳の部屋のようだ。
戦国時代なのだから、当たり前だろう。フローリングが張り詰められた洋室だったら反応に困る。

服装も、和服…と言ったら和服なのだろうか…。日本人なのに銀髪…というのが気になるが、着物みたいなものは着ているようだ。
一応、鎧みたいな物も身につけている。

写真を見終え、データフォルダに保存した後、ふと短い文章が目に入る。
内容は、「写真、送って」と記入されていた。
漢字間違えも無い、句読点もしっかりと入れられている。
少し間違えていた方が教え甲斐があって可愛いのに…。そんなことを思いながら自分の写真を撮ろうとして手が止まった。

相手は美少年。それなのに、私の普通の顔を相手に送って良いものか…。いや、見る人によっては普通とも映らないかもしれない。
くだらない考えと言われても仕方がないのだが、一応普通の女子高生と自負している私にとって、結構重要なことだった。

少しは…女の子として努力すべきなのだ。
そう思ったのが間違いだった。慣れない化粧なんかしたのが間違いだった。そして…何よりそれを送ったのが間違いだったのだ。

携帯が再び鳴ったのに気付き、手に取る。半兵衛からの返信のようだった。
その内容を見て、やっと間違いに気付いた。
「なんか、目の周り黒くないですか?未来の人って皆そうなのですか?」
この文章を見て、ようやく気付いたのだ。いくら化粧をしても、そう言う風にしか捉えられないと言うことに。
要するに、これがジェネレーションギャップとか言うやつなのだと思う。世代が離れすぎだと思うが…。

とにかく、このままにしておくと半兵衛が未来の人は皆こうだと誤解しそうなので、化粧を落として再度半兵衛に写真を送ることにした。

すると、また携帯が鳴りだした。
半兵衛からの返信のようだが、先程のこともあって内容を見るのが怖い。
だが、何時までも携帯片手に固まっていても仕方がないので、届いたメールの内容を確認する。

「こっちの方が可愛いです。」
目に飛び込んできたのは相変わらず短い文章だった。
だけど、「可愛い」だなんて滅多に言われたことの無い私にとっては、思わず赤面してしまう程だった。

お世辞かもしれない。そう思っても、やっぱり嬉しかった。
その文章の下には、「電話しますね」の文字。

暫くして電話の着信音が鳴り、少し緊張しながら耳に当てた。
これから起きる困難なんて知りもしないで。




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