『N』ー忍びで候うー
振動を感じた。

ぐわん、ぐわん、、と耳鳴りのような向こうで話し声が聞こえてきた。
ぁ、、郷太、、?

「一花なんて、すごく心配そうな顔してたんだよ。そんな、師匠とかっていうより、、
しかも!口移しで!」
「目が、覚めましたか?」
バックミラー越しに、六車が運転席から後ろを伺った。
郷太は慌てて言葉を切った。つい興奮していた自分に、まずい、と助手席で思わず小さくなる。

七花は後部座席に横たえられ、布団に巻かれ、落ちないようシートベルトで固定されている。
うっすら開いた目はうつろで焦点が合っていない。またすぐに閉じてしまった。

「もう少し寝ているといいですよ。すぐ病院に着きますから。大丈夫ですよ。」

ぼうっとする頭の中で思う。
誰かもそういってくれていたような・・・

だが、そこで七花の思考はふたたび闇の中に落ちていった。


シルバーの小型車の後ろを黒の大型バイクがついていく。
そして山の麓へ降りる道で二手に分かれた。



―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――

あたしは高熱を出し、病院に運び込まれていた。
過労による疲れからの熱だろうと診断された。幸い、解熱剤を飲んだのが早く、熱は比較的すぐに治まるだろうとのことだったらしい。静養するよう言われたらしく、今度はそのまま『N』で事務方として配属されることになった。すべては目が覚めてから知ったのだけれど。。

すっかり熱も下がり、起き上がれるようになったのは倒れて三日目の朝だった。
目が覚めると、山奥のログハウスではない部屋のベッドに寝かされていて、コーヒーの香りが部屋中から香ってきていた。それで、自分がどこにいるのかわかる気がした。

< 54 / 159 >

この作品をシェア

pagetop