人魚花


異変のきっかけは、唐突に起こった地震だったのだと思う。

それまで、<彼女>たちがいたのは、海の近くの、けれど海とは隔離された、透明でやわらかな水をたたえた小さな湖のなかだった。


──けれど、その平和で穏やかな世界は突然砕かれた。


あの日、一番はじめに起こったのは、真下から突き上げるような衝撃だった。

地面が歪み、張られていた根はそれまでの均衡を崩し、湖の水は大きく波立った。

けれどその驚きがおさまらないうちに、今度は横に、ぐらぐらと揺らぎ始めたのだ。

強い水流に目が回りそうになった。
陸地の木々が倒れていくのが見えた。左右に激しく煽られ、根元から崩れそうになった。葉っぱや蔓が大きくもげてしまった仲間もいた。


……<彼女>は、その揺れがいつまで続いたか覚えていない。気が付いたら何事もなかったように夜空に月が煌めいていて、けれど周りの景色は大きく様変わりしていた。

仲間の数は半分ほどになっていた。波に耐えきれず、根元から流されていった者が沢山いた。無事だった者も、葉や茎をもがれたり、傷を負っていた者が殆どだった。

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