浅葱の桜



「あれ? 沖田さん、居ないんですか?」



屯所へと戻るとそこには山南さんの姿しか無かった。


理由を聞くとどうやら向こうの本陣に顔を出してるらしい。


今日空いていたのがどうやら沖田さんだけだったと。


その一因は私にもある様で、私が居なかったから彼に頼んだとか。


ううっ。申し訳なさすぎるな。



それにこの腕の中にあるお菓子。



「せっかく貰ってきたのに……」



喜んで食べてくれると思ったのに。


しゅんと項垂れていると、山南さんは私を慰めようとしてくれたのか優しく笑いながら言った。



「心配しなくても今夜には帰ってきますよ。その時に渡せば喜んでくれると思います」

「なら……いいですけど」



また戻ってこさせられるなんて、残念だろうな。


向こうにいる方が沖田さんはちゃんと自分のちからを発揮できる気がするのに。


そうは思いながらも戻ってきて欲しいと思う。



一人であの部屋に居るのは寂しいから。



「桜庭くん?」

「へ?」

「ボーッとした顔をして。何か考え事でも?」



瞬間的に沖田さんの顔が出てきて、熱い。



「た、大した事じゃありません! えっと……これ、みなさんに配ってきますっ!」



お土産を口実にその場を離れる。


そうしないと、根掘り葉掘り聞かれそうでこわい。


そう考えると山南さんって苦手かも。


優しいお兄さん的存在なんだけど、いざとなった時にズバッと心の内を読まれそう。


……現に、後ろからクスクスと笑い声が聞こえますし!



「やりずらいなぁ……」



ポロリと漏れた本音。だ、誰にも聞かれてない……よね?


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