『それは、大人の事情。』【完】
―――休み明けの月曜日。
「はぁ~……っ」
朝からもう何度、ため息を付いただろう。
モヤモヤした気持ちで会社に出社した私は、オフィスの奥にある部長室のドアを眺め、またため息を漏らす。
私が勤めている商社は、世間では有名な上場企業。五年前に建て替えられた自社ビルの六階が私の所属している輸入食品事業部だ。
海外から輸入した食材を、主に国内のレストランや食品加工会社に販売するのが仕事。
今日もスケジュールはビッシリなのに、一昨日の部長との一件で気分は最悪。全くやる気が出ない。
「梢恵、浮かない顔してどうしたの?」
斜め向かいのデスクに座る佑月が心配そうな顔で声を掛けてきた。
「別に……ちょっと気分が乗らないだけ」
苦笑いを浮かべ独り言の様に呟くと、部長室のドアが開き、あの神谷部長が現れた。一斉に全員が立ち上がり朝礼が始まる。
私はデスクにもたれ掛かり、冷めた視線を部長に向け続けた。それは、私に出来る彼への小さな反抗。でも、部長が私を見る事はなかった。
朝礼が終わって部長室に戻って行く彼の背中を恨めしそうに見つめ席に着くと、私のデスクの電話が鳴る。
内線だ……
「はい、朝比奈です」
受話器を取り早口でそう言うと、全く予想してなかった人物の声が聞こえてきた。
『朝から何ふて腐れてんだ?』
うそ……部長?私の事なんて見てないと思ってたのに……
『不機嫌な理由は、俺か?』