『それは、大人の事情。』【完】

「さっき、朝比奈はこっちから歩いて来たろ?この辺にマンションはあれだけみたいだからな」


知られたくなかった自分のマンションを簡単に見つけられショックを隠し切れない。でも、どうして?


「部長の部屋に行くんじゃなかったんですか?」

「気が変わった。今日は帰れ」

「はぁ?」


なんて自分勝手な人。部長の考えている事が全く分からない。けど、もうその理由を聞く気にもなれなかった。


マンションの前で車が止まると無言で素早くドアを開け、傘もささず降りようとした。が、そんな私を部長が引き止める。


「そのタオルは置いていけ」

「いいえ、濡らしてしまいましたから、洗って返します」

「いや、気にしなくていい。返してくれ」


そんな大切なタオルなら、貸してくれなくても良かったのに……


タオルに執着する部長に苛立ち、手に持っていたソレを助手席に投げ入れると力任せにドアを閉めた。そして、マンションに向かって全力で走り出す。


何よ。あんなタオル一つで焦っちゃって、バカじゃないの?


部屋に辿り着くとヒールを脱ぎ捨て、そのままバスルームに直行した。


「どうして気のある素振りなんかしたのよ?もう部長とは別れる。セフレは解消だよ!」


大声で怒鳴ってシャワーのコックを全開にしたのと同時に涙が溢れ出す。


熱いシャワーが冷えた体を温めてくれたけど、傷付いた心は癒してはくれなかった。無性に寂しくて、悲しくて、頬を伝う涙が止まらない。


部長なんて……大嫌い……


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