『それは、大人の事情。』【完】
全てを話し終えた白石蓮の体が私から離れ、背中から彼の温もりが消えていく―――
「俺の話し……最後まで聞いてくれて、有難う」
低く沈んだ声が窓から吹き込んでくる潮風に流され余計に小さく聞こえる。
これで本当に終わりなんだ……明日からは、白石蓮を思い出にして生きていかなきゃいけないんだ。そう思ったら、もうこの熱い想いを抑える事が出来なかった。
イヤだ……そんなのイヤだよ……この子と離れたくない。
堪らず振り返り、縋る様に白石蓮の薄いブルーの瞳を覗き込む。
今決断しなかったら私は一生後悔するかもしれない。そんな気がしたから……迷う事なく彼の目の前で纏っていたクロスから手を放す。
音もなく私の肌を滑り落ちていくクロスを見て、白石蓮が慌てて手を伸ばしクロスを受け止め様とするが、ソレは彼の手をすり抜け、ベットの上にハラリと舞い落ちた。
「梢恵さん、なぜ?」と戸惑う白石蓮の手を取り、その手を自分の胸に押し当てる。
「見て。私を……見て……」
「それは……」
「―――いいの。私を蓮のモノにして?」
私が本心を口にすると、白石蓮はとても嬉しそうに「やっと、蓮って呼んでくれたね」って優しい笑みを浮かべた。その表情はとても穏やかだったが、次に彼の口から出た言葉はとても残酷なモノだった。
「もう、思い残す事はないよ。部長さんと幸せになってね……梢恵さん」
「えっ……」
それは、私が蓮に完全にフラれた瞬間だった―――