『それは、大人の事情。』【完】
そんな前から君は私を好きでいてくれたんだね。どうしてもっと早く……そう、真司さんと出会う前に君の存在に気付かなかったんだろう。
「だから、梢恵さんと初めてカフェで話した日の夜は嬉しくて眠れなかった。そしたらね、ずっと遠くで見てるだけで満足してたのに、もっと梢恵さんに近付きたいって思う様になって、何かと理由を付けては梢恵さんに絡む様になってた。
ピアスの事だってそう。ホントはね、雨の中を三時間も探してたなんて嘘。すぐに見つけたのに、梢恵さんの気を引きたくてワザとあんな時間に返しに行った」
「えっ……そうだっなの?」
「うん、梢恵さんに好かれたい一心で……」
そう呟くと、彼の指が私の耳元の髪をソッと持ち上げる。
「これ、あの時のピアスだよね」
「気付いてたんだ……」
「うん、新幹線に乗った時から気付いてた。嬉しかったよ」
熱い吐息が耳たぶを掠め、密着した背中から彼の心臓の鼓動が響いてくる。
「だから、勘違いしないで? 俺は一時の感情で梢恵さんを好きって言ったんじゃない。本気で、誰よりも梢恵さんを愛してきたんだよ」
「あっ―――……」
白石蓮は、誰にも愛されないと捻くれてた私を、こんなに純粋に愛してくれてたのに、私は彼の気持ちを蔑(ないがし)ろにしていた。この年代の男の子がなんとなく年上の女性に憧れるのはよくある事。どうせすぐに心変わりするだろうって。
でも、そうじゃなかったんだ……白石蓮は、本気で私を愛してくれていた。