『それは、大人の事情。』【完】

まだ少し痺れてる右手には、彼の頬を叩いた時の柔らかい感触が残っていた。


あそこまでする必要があったのかと罪悪感に苛まれる。でもすぐに思い直し、白石蓮はそれだけの事をしたんだからと自分を正当化していた。


「今の昨日のヤツだよな?」

「あ、うん、そうだと思う」


トボけて明るくそう言ったけど、内心は穏やかではなかった。部長が来るのがもう少し早かったら、白石蓮に壁ドンされてるとこを見られてたかもしれない。


やましい事は何もないけど、変に勘ぐられて疑われるのはイヤ。


もう白石蓮とは関わりたくないと思いながら部長の後に続き裏口を出ると、雨は止み湿気たっぷりの生暖かい風が吹き抜けていく。


「何食いたい?」


振り返った部長の顔を見て、思い出した。


「ゆっくり話せるとこなら、なんでも……」


そうだ。白石蓮の事なんて考えてる場合じゃない。私には、ハッキリさせなきゃいけない事があったんだ。


頷いた部長が連れて行ってくれたのは、お洒落な洋風居酒屋。店の奥にある個室に案内された私達は、取りあえずビールで喉を潤し、メニューを広げる。


「どれがいい?」


珍しく私にオーダーする品を聞いてくる。


「部長にお任せします。それより……あの話を聞かせて下さい」


本当は、大人の女性らしく落ち着いて話しを聞こうと思ってた。けど、今の私にはそんな余裕などなく、部長を急かす様に前のめりになっていた。


「分かった。話そう」


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