『それは、大人の事情。』【完】
「もっと早く聞かせてくれたら良かったのに……」
泣き笑いした佑月が私の頬を軽く抓(つね)る。
「うん、そうだね。でも、本当の事を話して佑月を失うのが怖かったから」
私達の間には、もう隠し事は何もない。これでやっと、佑月と本当の親友になれた……
「でも、梢恵が神矢部長と本気で付き合ってたなんて……専務の娘さんの事は大丈夫なの?」
「それは大丈夫。真司さんとちゃんと話したから」
「ヤダ、梢恵ったら部長の事、真司さんなんて呼んでるんだ」
そう言って非常口の扉を開ける佑月の後ろ姿を見つめ、私は照れ笑いを浮かべていた。
今までこうやってからかうのは、いつも私の役目だった。けど、佑月に冷やかされて、やっと私も人並の恋をする事が出来たんだと実感する。
幸せを感じながら笑顔の佑月と誰もいない廊下を並んで歩き出すが、目の前の第二会議室のドアが開いた瞬間、佑月の顔が強張った。
そうだった。佑月と修の関係は絶望的。こじれまくってしまった……きっと佑月は、もう修の顔なんて見たくないって思ってるよね。
タイミングが悪かったと焦るが、私達の前に現れたのは真司さん一人。修の姿はない。不思議に思い真司さんの元に駆け寄り修の事を聞いてみると……
「あぁ、アイツなら、まだ中に居るよ」
真司さんがそう言った直後、佑月が躊躇う事なく会議室のドアを開けた。
「佑月?」
「ごめん……やっぱ私、彼が好きだから……」