それは、小さな街の小さな恋。
「梅のヘタ取り、昔よりは早くなったよ。」
「へえ。」
「紫蘇も漬けたんだけど、やっぱり初子ばあちゃんみたいに綺麗な赤にはならなかったよ。」
「へえ。」
俊ちゃんは、庭に生えた梅の木を眺めながら興味なさそうに相槌を打つ。
話題変えたほうがいいかな、そう思ったとき、先に話を変えたのは俊ちゃんの方だった。
「もうすぐだな、梅子さんの命日。」
「うん。」
「もう、11年か。」
「うん。」
梅の話をすると必ずお母さんの顔が頭に浮かぶ。
単純すぎる話だけど。
きっと怒ってるだろうな。名前のことを言われるのは嫌いだったから。
鼻がツンとする。胸が痛い。
なんでだろう。11年も経つのに、今だにお母さんの話をするとこれだ。