柴犬~相澤くんの物語り
 今日はクリスマスなんだと街の賑わいで気づいた。

 街路樹に小さな灯りが点滅している。
街の至る所にツリーが飾られ、クリスマスソングが溢れている。

 浮き足だった街の風景に去年までのクリスマスをふと思い出す。



 毎年、おれも家の中にあげてもらって相澤家のみんなとパーティーをした。
とんがり帽子を無理矢理被らされてみんなで笑いながら写真を撮った。
いつもよりごちそうがたくさん出て嬉しかった。


 そんなことを考えながら寒風の吹きすさぶ夜の街を歩く。




いつもの中華料理店の裏口。


 スーパーの袋の中身は、今夜は残飯じゃなかった。

 二匹ぶんのローストチキン。

おばさんがおれたちのために特別に用意してくれたごちそう。


嬉しくて早く高宮さんに見せたくて帰り道を急ぐ。



 でも角を曲がった時、大きな黒い野良犬が現れた。

 必死で闘ったけど、かなわなかった。

 あとにはボロボロになったおれだけが残った。
悔しくて切なくて泣きながら高宮さんの所にもどる。



 今夜は食べるものがないんだ、

 クリスマスなのに……

 おばさんがせっかく用意してくれたのに…




 涙があとからあとからボロボロこぼれ落ちた。
 
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