柴犬~相澤くんの物語り
 「相澤君、すみません……いつも迷惑ばっかりかけて……で、でも私は相澤君といるだけで……」

 そう言って彼は口をつむぐ。


 「あんた、もう家に帰れ。あんた見てるとイライラするんだ!」

 「そ、そんな、どうして……あ、相澤君、どうしちゃったんです?」

 「おれだけなら、食べ物だって、もっと楽に手にはいるんだ! あんたといると疲れるんだ! 出てけ、出ていけ!」

 駄々っこみたいに泣きながら、わめき散らした。



「そぅ…ですよね……私がいると足手まといですよね……それでも…君といたい……君に迷惑がかかるのは承知してます。でも…私は君が好きなんです……」

 高宮さんの目から大粒の涙がこぼれ落ち地面を濡らした。



 でも、この時のおれには、彼の言葉は何ひとつ届いていなかった。

 さっきあの大きな黒い犬に噛まれたところがズキズキ痛んで、空腹で目が回りそうで、寒さで体が震えて……

 惨めで情けなくて、こんな姿、高宮さんにだって見せたくなかった。


「うるさい! とっとと家に帰っちまえ!」

 おれは高宮さんのバッグを口にくわえると彼めがけて投げつけた。

 バッグは彼の胸にあたり地面に落ちる。



 高市さんは、とても哀しそうな目をしておれに何か伝えようと必死に言葉を探していた。

 でも、結局何も言わず、黙ったままペコリと頭を下げると小屋をあとにした。



 高宮さんが出ていってしまった……。


 でも何も考えられなかった。

 倒れこむように地面に横たわると気を失ったみたいに眠り込んだ。
   
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