柴犬~相澤くんの物語り
 次の日、隣の檻がガチャガチャと開かれる音がして

 「おいで」

 と、誰かが、じいさんに呼びかける声が聞こえた。


 心臓がどきどき大きく波打つ。

 自力では歩けないのか、職員にかつがれ、白い大きな犬が檻から姿を現した。
昔はきっと真っ白だったに違いない長い毛は茶色く汚れ、ところどころ抜け落ちていて目の上にも毛が覆いかぶさっている。


 「じいさん!」

 おれが呼びかけると、哀しそうな、それでも全てを悟ったような穏やかな瞳でおれを見つめた。


 「さようなら……」

 言い残すと、じいさんは、とても大人しく職員に抱えられたまま部屋を出ていった。



 ガチャンと扉が閉じる音が部屋中に響き渡る。




 「じいさん!」

 その途端、おれは狂ったみたいに暴れだした。鉄格子に体当たりしながら

 「じいさん助けなきゃ! 開けろ! ここから出せ! じいさん!」

 大声で叫びながら暴れ続けた。
 
< 72 / 84 >

この作品をシェア

pagetop