柴犬~相澤くんの物語り
 高宮さんが声高らかに遠吠えを始めた。


 淋しくて哀しくて魂を揺さぶられる声だった。



 わめきちらし、泣き叫び、がむしゃらに檻の鉄格子を叩きつけても、じいさんは帰ってこなかった。

無力な自分に腹が立つ。

わけのわからない力に屈しなければならないことが悔しくてたまらない。



 でも……

高宮さんの哀しげな遠吠えを聞くと次第に体の力が抜けてきておれは床に崩れ落ちた。
放心したように動けなくなり、じっと横たわっていた。


 彼が遠吠えをやめ、うなだれ声を殺して泣き始める。
涙がコンクリートを濡らすのをただ黙って見つめている……


 立ち尽くしたまま、ぽろぽろ涙をこぼしている彼が愛しくて切なくて、おれも泣きながら彼を見上げた。

 「おれがずっと側にいるから……」


 「相澤君……君だけでも助けたいのに……でも、どうすればいいのか……もうわからくて……すみません……結局私は…迷惑しか……」

 「バカ、何言ってんだよ。助かるなら二匹とも。おれたち、どんなことがあってもずっと一緒だよ……」

 涙に濡れた顔で微笑む。


 「相澤君……」

 高宮さんがおれの肩に顔を付けた……。



 いつものように彼のお腹にもぐって眠った。こうして眠れるのもあと二日……。


 彼の温かさを心に刻む。

 
< 73 / 84 >

この作品をシェア

pagetop