絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅴ

1月13日 2人の過去と現在

1月13日

 宮下が懐石料理店から自宅へ送り届けてくれ、自室に戻るなり香月は榊に連絡をとっていた。その内容はもちろん二千万の借金の内容である。

 榊も関係していたことから、一部始終を知っているかと思いきや、詳しいことは何も聞いていないらしく、巽に連絡をとってくれることになり、初めて2人で会うことになった。

 2人きりで会うなど気が進まないが、そんな大金がどのように流れたのか、さすがに知っておく必要がある。

 その流れによっては佐伯への連絡の仕方も考えなけれはならないし、一番重要なところだ。

 巽からの伝言は榊経由で、込み入った話なので自宅の新東京マンションでと誘われたが、知らない人の家に行くのは気が引けたので外で会いたいと、日にちと時間と場所は合わせるのでどこか外の個室をとってほしいと頼んだ。

 そこが、船場吉兆の離れであった。こんな政治家御用達のような料亭へは出向いたことがなく、タクシーから降りるなり緊張して、周りを見渡した。

 辺りは静まり返っていて、何の音も聞こえない。

 約束は午後7時。現在10分前。香月は意を決して手入れされた庭を歩いて門をくぐり、大振りの引き戸を開けた。

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