不倫のルール
「繭。幸せ?」

「うん。一緒にいられる時間はわずかだけど、すごく幸せ」

顔の見えない明奈に届くように、一言一言に想いを込めた。

「そっか……わかった」

明奈はいつもそう。私が自分の思いや望みを、たどたどしく話すと、静かに聞いてくれる。

そして最後に「繭は、それで幸せ?」と訊いてくる。

「うん、幸せ」と迷いなく答えると「わかった」と頷いてくれる。

しっかりと答えられないと「繭の本当の“想い”は何?」と、再び訊かれる。

我慢する事に慣れてしまった私の気持ちを、そっと引き出し、大切にしてくれる明奈。

ごめんね。明奈の大切な場所を、過ちを冒す場所にしちゃって……

私が精いっぱい伝えた気持ちを、それぞれの形で受け止めてくれた親友達……

私は、どうすれば彼女達に報いる事ができるのだろう………


**********


七月のある金曜日──

黒崎さんと付き合って丸三年。私は、間もなく二十六才になる。

「プライベートで『黒崎課長』は……」と言われたので、呼び方を「黒崎さん」にした。

「名前は呼ばない」そう決めていた。これ以上近付かないよう、私なりに黒崎さんに線を引いたつもりだ。

黒崎さんの重荷にならない為、黒崎さんにのめり込みすぎないよう自分を守る為……

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