初恋フォルティッシモ
「うるせーよ」
「!」
「お前だって本当は、頭ん中は青田との“デート”のことでいっぱいなんじゃねぇの?」
……そう一言口にしてしまったところで、俺はやっと我に返る。
けど、もう時既に遅し。
周りの部員達は皆俺達に背中を向けている状態だし楽器の音で気づいていないけれど、ただ1人目の前の麻妃先輩はビックリしたような表情をしていて。
だけど俺は今更言葉を訂正出来ずに、言葉を続けた。
「…そんなに青田がかわいいか、“先輩”は」
「…、」
「だったらもう付き合っちゃえよ」
「…っ」
そう思ってもいない台詞を口にして、俺は麻妃先輩の横を通り過ぎる。
完全に嫉妬だってことは、自分でもわかっていた。
だけど、ブレーキは効かなくて。
情けないと心ではわかっていながらも、俺はそのまま音楽室を出る。
…そんな俺を、麻妃先輩は今日は珍しく引き留めたりしない。
バタン、と乱暴に閉めたドアの音が、その時妙に虚しく廊下に響くのを感じた…。