世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-

青空

「遊佐、大丈夫か!?」

「...うん、大丈夫...じゃないけど」


正直大丈夫じゃない。
痛い、でも、それよりも。
天馬に、戻ってきて欲しい。


「...帰った方が身のためだよ、お嬢さん」


男の声は、少し笑みを含んでいた。


「...今の天馬はもうお嬢さんが知っている天馬じゃないよ。天馬のためにも帰ってやってくれ。それが天馬の、遺言だ」

「...ふざけんな...天馬は死なせない」


男を睨み付けた。
それでも、男は不気味な笑みを絶やさない。

そして、鼻歌を歌いだした。

聞いたことがある、その鼻歌は、狂気染みているあの好きになれない鼻歌だった。

あの日、夕日に照らされた教室で金平糖を食べていた時も、花火を見ながら別れた時も、天馬はこの鼻歌を歌っていた。


「...その鼻歌、天馬が歌ってたよ」


青柳颯太が男に向かってそう言った。


「天馬は、自分を冷静にするためにその歌を歌っていた。お前が好きなその曲を歌えば、アイツは情に流されなくなるんだろうな。人間にあるべき、心ってやつを、アイツはこの鼻歌で消そうとしてた。」

「そうか。よっぽど俺のことが嫌いらしいな」


ケタケタと笑う男は、天馬の方を見た。


「でも今のコイツには俺も君達も大差無いだろう。襲うターゲット、俺も君達も、天馬にとってはただそれだけだ。お嬢さん、まだ教えてもらっていないのかい?」

「何を?」

「...コイツが凶暴化するのには理由があるんだ」

「理由?」

「あぁ。コイツはな、色を奪うために人を襲うんだよ」
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