世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-
施設を出て、天馬は空を見上げた。


「...初めてみた。青空」


外の空気を吸い込みながら、天馬はそう言った。


「どう?初めてみた青空の感想は」


私の質問に、天馬は小さく笑いながら言った。


「思ってたより汚いね。俺が想像していた青よりずっとくすんでて、ぼんやりしてる。...でも」

「でも?」

「...俺が想像していた空より、ずっといい。...汚いけど、綺麗だ」


太陽の眩しい光に照らされて、天馬の表情は窺えない。
私も、空を見上げた。

右目は、青。
左目は、白。

白い世界では、雲一つない空なんて、どこがどこだか分からない。

その目で天馬を見れば、天馬の笑顔が映った。

天馬が綺麗だと言った青空と、天馬の栗色の髪が流れるように風に揺れる。
天馬が見ていた白い空と、白いはずなのになんとなく水彩画のように色付く天馬の笑顔。

最高の景色だと思った。


「...この世界は、案外天馬を笑顔にするために必死だったりするのかもね」


私はなんとなく頭の中に浮かんだその思いを天馬に伝えた。


「...そうかもね。笑顔にしてもらえたよ。この世界が、好きになった」


その言葉が、私を何より嬉しくさせた。


天馬の笑顔、青柳颯太の笑顔。
今までの苦しさ、辛さ、楽しさ、嬉しさ。
それを思い出して、この世界は、私達を笑顔にしようと必死だったのかもしれないと、そう思った。
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