イレカワリ
見知らぬ男
走って走って走って。


気が付けばあたしは自分の家の前に立っていた。


足は自然とこちらへ向かってきていて、気が付いた時にはその懐かしい玄関前だった。


あぁ……今すぐこの家に帰りたい。


『ただいま!』


そう言って、マホとしての人生を歩み始めたい。


あたしは自分の姿を見下ろした。


でも、今のあたしではそれもできなかった。


自分自身の人生を歩むことすらできない自分に、あたしは握り拳を作った。


肩で呼吸を繰り返し、そっと玄関から離れる。


リビングの窓へ視線を向けてみると、電気はついておらず真っ暗だ。


今日はみんなで出かけているのかもしれない。


あたしの家は月に数回家族で外食をしていたから、今日はその日なのかもしれない。


あたしは肩を落として歩の家へ戻るために歩き始めた。


太陽はすっかり落ちていて周囲はとても暗い。


歩の家からなら満点の星空が見える事だろう。


それだけを楽しみに、あたしは足を動かしていた。


その時だった。


聞きなれた声が前方から聞こえてきて、あたしは足を止めた。
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