トンネルを抜けるまで
3組目

「……い、おーい」
 男性の声で目を覚ました。ってかこの口調、先生か!
 体を起して、隣を見る。いつものピッチリとした灰色のスーツを着た細身の先生は、人差指で眼鏡をくいっと上げた。
「良かった。怪我をしている様には見えなかったからな、大丈夫だろうとは思っていたが」
 先生、此処はどこですか? なんか薄暗いし道がこの先の見えない暗いトンネルしかありませんが……もしかして、私のこと誘拐しました?
「馬鹿野郎、先生がよりによって何で生徒を誘拐するんだ。そんなことしたら人生の終わりだよ」
 ですよねぇ。じゃあ何でこんなところに……あ、もしかしてこれって夢?
「それは一つあるかもしれないな。先生、何だか頭がどうも冴えなくてな。何か、記憶の抜けてるところとかある気がするんだ」
 そうなんですかぁ? ラッキー。今日の数学のテストは無しですね!
「安心しろ、数字のことは何一つ忘れていないぞ」
 ……サイアク。
「生徒、ああすまない。実は君の名前も忘れてしまってね。これでは困るので、君に話を聞きたいんだよ」
 実は私も先生の名前忘れたんですよ。へへっ。
「そうか、ならば尚更君に聞かないとならないな。お互いのことを少しでも思い出す為に」
 仕方ないよなぁ、わからないことばかりじゃ家帰ったとしもモヤモヤするだろうし。とりあえず歩きましょっか、道は前にしかないみたいだから。
「だな」
 さっさと家に帰んなくっちゃ。私達二人は、迷うことなくトンネルの中へと入って行った。
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