トンネルを抜けるまで

 今度は、目を覚ましたのは病室の中だ。と言うことは、何とか助かったらしいな。
「ダニエル!」
 あどけないたれ目が僕を見つめる。ぴょんぴょんととび跳ねているが、確か撃たれてたよな? 大丈夫か?
「うん、撃たれたよ。でも腕かすっただけだから」
 セシリアが腕に巻かれた包帯をジャーンと見せつける。思わず暫く言葉を失った。何か言いたくとも、口がただただぽかんと開いている。
 け、けど、あのトンネルにいたし!!
「あれ? 実はショック死みたいなの。だから言ったじゃないですか、あれくらいのことでって」
 ……本当に、あれくらいじゃないか……全身の力が抜けた。腕の内側にかすれたから、腹部に血がにじんでいたのか。だが、だとしたら、何故あの時抵抗しなかったんだ? 光を抜けた時点で、生き返っていたはずだろう。
「だから、私結構考えて行動するタイプですから~車の足元で横になってた時に、こっそりスマホで場所教えといたの。でも、まさかあんな堂々とダニエルが通報すると思わなくてびっくりしちゃった。あの時は、流石に後悔した。犯人だって、警察が来た途端に銃で自分のこと撃っちゃうし。本当に、ロクでも無い方でしたね」
 何だか長々とお話されている様だが、何が何だかもうわからない。全ての出来事に呆れかえって、もう此処までの思い出さえもがため息で掻き消された。
「ですが、本当にかっこよかったです」
 はぁ? 思わずしかめっ面でセシリアを見る。
「私のことを思って、車を動かして、着いた後も見捨てないで通報してくれた。貴方様は、私にとっての勇者様でした」
 セシリアは僕の手を握り、優しく微笑んだ。
 何を馬鹿なことを。そう言いながらも、僕の口元は緩んでいた。

 その後、聞いても無いのに、あの借金取りと、拳銃男が自分が通報したことで捕まった話や、新作ゲームの話、親とのことやトンネルでのことなど色々話していた。疲れ果てていたので話の半数くらい聞き流していたが、不思議と腹は立たない。むしろ、心地よいくらいだった。その後、僕や彼女の親が合流して、話は盛り上がりを増していく。勿論、トンネルのことは二人だけの秘密だと口止めしておいているが、それにしたってこの盛り上がり様。……この状態じゃ、このまま結婚に進んでってしまいそうだな。まぁ、彼女だったらそれも仕方ないか。
 ……今頃、あっちはどうしてるんだろうな。
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