トンネルを抜けるまで

 信じられない、僕はまたこの世界に来たのだ。真っ暗なトンネルのある、命を繋ぎとめるこの空間に。完全に銃で撃たれていたのに、まだ生きる望みがあると言うのか。
「え? また来たの!?」
 驚いた様子で、エルとリックが駆け寄ってきた。
 またとは何だ、またとは。
「今度はどうして?」
 今度は少し面倒なんだが、早い話、車でぶつかってきた相手に銃で撃たれてな。
「アンタ今日散々ね」
 本当だな。悪霊でも憑いてるのだろうか。……あ、まさかだが、彼女は来てないよな?
「セシリアちゃんって子? うん、来てない。良かったね」
 ああ。彼女が死んでしまっては、あまりにも報われない。まぁ、此処にもう一度来れたのも運命だろう。君に言いたいこともあったしな。僕はそう言ってリックの方を見る。
「オレ? エルパンじゃなくて?」
 彼女の言うことはお節介ばかりでうるさいから。
「何よそれー」
「あ、誰かいる」
 リックの指さす方を僕とエルが見る。すると、そこにいたのは、僕を撃った正にソイツ。あの男がいた。
 アイツだよ、僕を撃ったのは。
「え、アイツ!? うわー……気を付けてね。私達はとりあえずはけるわ」
 エルとリックは急いで茂みの中へと走って行った。無言でそれを見送ると、仕方なくそっちへと視線を変える。
 本当は言いたいこと、やってやりたいこと、たくさんあった。だが、事情を忘れてしまったのか、おどおどしている男にもう何をする気も起らなくなった。ただ、不安げな男の手を引いて黙って歩きだした。
「お、お前! そんなトンネル入って大丈夫かよっ!!」
 男の言葉を無視して、暗いトンネルを駆け抜けた。ああ長い。こんな時に限ってトンネルの長さを恨む。さっき来た時はこの長さが惜しかった程なのに。
「ま、待てよっ!!」
 突然強い力で手を引き、振り返った僕の手を叩き、男は後ろへと足音を立てていった。記憶を思い出して逃げたか。僕が走って追っかけると、すぐに、「ひぃっ!」と情けない声が聞こえてきた。偶然にもうすぼんやりとした明りの下だった為、男が立ち止まった理由はすぐに分かった。
「せっかくダニエル兄さんが自ら先導してくれてんのに、此処でバイバイはちょっと早いんじゃな~い?」
「戻るの? 何も無いし、下行っても、多分貴方には地獄だよ。……それに、貴方みたいなタイプの人、来て欲しく無い」
「な、なんだよお前等……」
 後ずさりする男の肩を後ろから掴むと、男が震えた。そのまま手首を掴み。年配の刑事の様に、行くぞと低い声で言った。振り返ると、2人に向けて礼代わりに片手を上げた。
「偉いよ。本当はぶん殴りたいくらい腹立ってるのに、我慢してるんだもん。遠くからだけど、応援してるよ。セシリアちゃんとのこともね」
 それはまだどうなるか分からないが……そうそう、言い忘れるところだった。リック。
「何?」
 エルパンのこと、宜しくな。
 リックは少し驚いていたが、ニコりと笑うと大きく頷いた。
「任せて!」
 元気な返事に安心した。今度こそはと男を強く引っ張りながら走り、真っ白な光へ向かって男をぶん投げた。まぁ、これくらいは神も許してくれるだろう。男が消えたのを見届けると、僕も真っ白な光に飛び込んで行った。
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