トンネルを抜けるまで
2組目

 ……ううんっ。大きく伸びをして、目を開けた。ココはドコ? 何か薄暗くてや~な感じのトコ。何の音も無くって、後ろは崖だし、前はお先真っ暗なトンネルが一つ。やだコレ、通れってコト? 今、私何の撮影してるんだっけ。
 すみませ~ん、カントクゥ~。呼んでみるけど返事がない。どうして? カントク、カントク。マネージャー、トシオさん。幾ら呼んでも、物音一つしない。乙女座りで可愛くキメていた足を崩して、立ち上がってみる。辺りを見渡した。
「こんにちは」
 ずっしりとした低音イケメンボイスに鳥肌が立ちまくった。恐怖から思わず悲鳴を上げると、あごヒゲをたくわえたおじ様が慌てて手を振る。
「す、すみません。怖かったですか?」
 怖かったですぅ。今も凄く怖いですぅ。うるうる涙目で言った。大抵のバカな男共はこれでイチコロなのだ。
「すみません。あの、此処は何処でしょうか? 私達は一体……」
 知らないですぅ。ってかイチコロのうるうる攻撃を無視だとー? 許せん。
「此処、私達はどうやって来たのでしょう。そして、戻るにはどうすれば」
 だーかーら、知らないですってば。ってか、コレ何の撮影なんですか? エキストラさん。
「撮影? エキストラ? 私は知りませんが。そもそも私、普通の会社員ですので……」
 え? じゃあコレは何なのよ。
「さ、さぁ。私には何が何だかさっぱり。でも、ずっと此処にいるわけにもいかないんじゃないか、とは思うんです」
 そうですねぇ、ココにカントクがいないんじゃ、撮影が進めないし。じゃ、さっさとトンネル入りましょっか。案外サッパリした私におじ様は少し動揺していたけど、すぐさま後ろから、「待って下さいよ~」と駆け寄ってきた。うふふ、良い飼い犬になりそうだわ。
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