〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。

「…陽人。苦しい。離して」

「嫌だ」

どうしたの?陽人。訳が解らない。
甘いって言っても流石にこれは違う気がする。


エントランスからエレベーターの中、それに玄関口。
微かだけど香る残り香が気になった。

アイツ、来たのか…。

京に確かめるか…。

なんて言って切り出す?

誰か来たか?
それだけで勘繰るだろう。
いや、間違いなくそんな聞き方は何かあると思うだろう。

今夜はそんな気分じゃ無かった。
さっき迄の俺は心弾ませていたんだ。
京が来たいと言ってきたから。
嬉しかった。
いつ渡そうかと用意していた鍵を渡すきっかけにもなった。

そんな日だ。
台なしにしたくない。
不安と、出迎えてくれた京の顔を見た安心と、ない交ぜになった俺は抱きしめた。
安心…出来なかった。

…京。
京の体からは男物の香水の香りが僅かにした。
我ながら、匂いに敏感な自分を恨んだ。

思い過ごしもある。
満員電車で接触し続けて移ってしまう事もある。
だけど…京は電車には乗らない。

タクシーの前の乗車客の物か。
タクシーにも乗らない。
このマンションは会社からそう離れていないからだ。

…なんて日だ。
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