冷たい彼の情愛。
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縁との出逢いは、大学に入学してから少し経った頃のこと。
私は柚ヶ崎大学の法学部政治学科に在籍する1年生。
堅苦しく聞こえてしまう学科名かもしれないけど、一言で“政治”と言っても幅広く、一般的な政治のことだけを勉強するのではなく、ジェンダーや社会生活全般、国際政治などの勉強も行う学科だ。
私は特に地域社会や福祉国家関連の勉強をしたくて、この学科を選んだ。
1、2年の間は専門的な講義もあるけれど、教養の講義が多くを占める。
引き留める友達の言葉を無視してレポート提出の多い講義を選択してしまった私は、よく大学附属図書館に通っていた。
ある晴れた爽やかな初夏の日のこと。
ちょっとした出来心で、専門誌など古い資料や専門的な本が保管されている書庫に私は足を踏み入れていた。
「わ、ひんやりする……」
本の独特なにおいのする、空気がひんやりとしている薄暗い書庫を本棚に沿ってゆっくりと歩く。
多くの人が利用するのは図書館の入り口のある2階と、2階よりも多めの勉強スペースが広がる3階。
書庫は1階にあり、その名の通り、本が敷き詰められているだけで勉強スペースも一切ない。
そのため、卒論を抱えている学生や大学院生、教授などの職員くらいしか利用せず、普段はほとんど人は来ないらしい。
書庫の本棚は永遠に続いているんじゃないかと思えるほど広く規則正しく並んでいて、本棚には日に焼けた古めかしい本や資料が並ぶ。
まるで倉庫のような古さを醸し出す低い天井には、むき出しの蛍光灯が規則正しくぽつんぽつんと並んでおり、一部、電灯が切れかけているのかチラチラしているものもあって、独特の雰囲気だ。
夜にここに来るのはさすがに怖いだろうなぁと思いながら、本棚と本棚の間の通路を横切ろうとした時だった。