冷たい彼の情愛。
耳元で甘く囁かれる。
「好きだよ。咲世のこと、めちゃくちゃ好き。そうやって拗ねちゃうところも、恥ずかしがっちゃうところも、すごくかわいい」
「ん……っ」
縁の唇が耳に触れ、私の体が熱を帯びていく。
縁は私の心の中を全てわかっているみたいに、拗ねた心を簡単に元通りに戻してしまって。
縁の甘さや熱は、ちょっと意地悪されてしまったことも、大学での冷たさもすべてを忘れさせる。
「咲世」と甘く囁く縁の声が脳内に溶け込んでいく。
私の肌に触れていた縁の唇がふと離れて顔を覗きこまれたかと思えば、縁はふたりでいる時にはあまり見せない真剣な表情をしていた。
「……縁?」
急にどうしたのかな?と縁の名前を呼ぶと、縁の形のいい唇から少し低めの声で思わぬ言葉がポツリと零れ落ちる。
「……今日さ、政治学科のヤツと目で会話してたよね?」
「え? 目で、会話……?」
何のことかわからなくて考えを巡らせる。
そして、ふと今日の講義のことを思い出した。
ぼんやりとしていて指摘されてしまった私に対して、同じ学科の男の子が「ドンマイ」と伝えてくれたことを。
「あ、あれね。目で会話してたとかじゃなくて、私がぼーっとしちゃってたから心配してくれただけだよ?」
「……ほんとにそれだけ?」
「うん。それだけだよ」
どうしてこんなこと聞いてくるのかな?
ちょっとくらい目配せするのは普通のことでしょ?
縁だって、他の女の子とよくしてるし……。
心を通じ合わせちゃってるんじゃないかって思って、その光景を見るたびに妬いちゃうから、あまり見たくはないんだけど。