冷たい彼の情愛。
3.大切な彼の情愛
 
***


「咲ー世っ」

「きゃっ!」


のめり込むように分厚い本とにらめっこしていたはずの縁が、突然キッチンにひょこっと顔を出してきた。

ビックリしてしまった私は持っていた卵を落としそうになってしまったけど、何とか落とさずに済んで胸を撫で下ろした。


「あれ、驚かせちゃった?」

「卵落としそうになっちゃったよ~」

「あ、ごめんごめん」


謝ってくれるものの私の焦りはどこ吹く風の縁は、にこにこと笑いながら期待の目を私に向けてくる。


「今日は何作ってくれるの?」

「……ごめんね、そろそろ野菜が傷んできちゃいそうだから、今日は手抜きのお好み焼きです。」

「何で謝るの。俺、咲世のお好み焼き大好きだから嬉しい! あのほっくり感、ほんとどうやって出してるのか不思議なんだよねー。あと、お手製ソースも!何度教えてもらったように作っても再現できなくてさ」


縁はそう言ってくれるけど、大学に入ってから一人暮らしを始めた私は料理のレパートリーがまだ多くない。

残り物で簡単に新メニューを作れるほどの腕前もなく、キャベツがたくさん残ってるからお好み焼きにしちゃえ!とか、肉が残ってるからそのまま野菜と一緒に炒めちゃえ!とかその程度。

ネットで調べればレシピはたくさん出てくるけど、私にでも簡単に作れそうなものを見つけるのはなかなか難しいんだ。

一方、縁は料理のレパートリーは私よりずっと多いし、高い食材を使ってるわけじゃないのにオシャレな料理もできるし、どこでテクニックを取得したの?と聞きたくなるほどの腕前で。

縁が料理してくれることは、度々のことだったりする。

 
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