冷たい彼の情愛。
縁が純粋に誉めてくれていることはわかってはいても、何となく悔しくて、私は口を尖らせる。
「ねぇ、縁ってどこで料理覚えたの? 私よりずっと上手いんだもん。悔しいよ」
答えによってはショックを受けてしまうような質問だけど、好奇心や悔しさの方が勝ってしまって、私は溢れださせるように聞いていた。
「ん? あれ、言ってなかったっけ? 俺の兄貴、ホテルシトラスのシェフなの」
「ホテル、シトラスって……えっ!?」
この辺りでは有名ホテルの!?
スイートルームがウン万円するっていう!?
「何かわかんないんだけどさ、中学高校の頃、兄貴に散々料理のテクを詰め込まれてさ。いつの間にかこうなってた。まぁ、料理するのは楽しいし、困らないからいいんだけどね」
「……」
ヘコむ……っていうか。
「ごめんね、そうだとは知らずに、私の質素な料理を……」
申し訳なさすぎる……。
「いや、だから何で謝るの。俺、咲世の作るご飯、大好き。これぞ家庭の味!って感じですごくあったかいんだよね。咲世のお母さんの味付け教わったって言ってたよね? お好み焼きはお父さん直伝だっけ?」
「……うん」
「咲世が小さい頃から食べてきた味を味わえるなんて、俺、ほんと幸せ」
「!」
照れたように笑った縁は「あっちで待ってるね」とキッチンから去っていった。
……縁はズルい。
こんなに簡単に、私を幸せな気持ちにさせるんだもん。
こんな時間がずっとずっと続けばいい……。
私は頬が緩むのを感じながら、卵を割ってさくさくとタネを混ぜ、温めておいたフライパンでまぁるいお好み焼きを焼き始めた。