パドックで会いましょう
「もっと自分に自信持てって言うたのに。」

「どうすれば自信持てるだろう…。自信持てるようなもの、僕はなんにも持ってない。」

「そのまんまでええよ。」

ねえさんは両手で僕の頬を包んで、僕の目をじっと見つめた。

「なぁ、アンチャン…恋人ごっこの続きでもしよか。」

「えっ…?」

一体何を言い出すんだ?!

恋人ごっこの続きって、なんだ?

心臓が壊れそうなくらい大きな音をたてて、身体中の血が沸き立つように熱くなる。

「そのつもりで連れて来たんとちゃうの?」

それはもしかして、好きとかそんな恋愛感情はないけれど、遊びでなら一度くらい体の関係を持ってもいいって、そう言ってる?

確かに、まったく考えなかったと言ったら嘘になるけれど、僕は遊びなんかでねえさんをどうにかしたいなんて、思っていないんだ。

「恋人ごっこなんて、しない…。」

ひどく掠れた声が、僕の口からこぼれた。

「…ん?」

ねえさんは僕の目を覗き込むようにして、少し首をかしげた。

「僕は、そんないい加減な気持ちで…ねえさんを…。」

不意に、唇に柔らかい物が触れた。

ねえさんが、唇で僕の唇を塞いで、僕の言葉を遮った。

ねえさんにキスされているのだと理解すると、僕の頭の中は真っ白になった。

「今だけ、遊びじゃなくて、本気になろ。」

ねえさんが小さく呟いた。

「今だけ…?」

「うん、今だけ…恋人になろ。」

そんなの、遊びと同じじゃないか。

今だけとか、遊びなんかじゃイヤだ。

「ねえさん、僕は…!」

「お願い、もう黙って。」




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