パドックで会いましょう
ねえさんはまた僕の唇を塞いだ。

ねえさんの唇の柔らかさとか、絡められた舌の温かさに、頭がボーッとしてしまう。


ねえさんが、欲しい。


遊びなんかじゃなくて、本気で、ねえさんのすべてが欲しい。


精一杯理性で抑えていたはずの本能が、堰を切ったように溢れだした。

僕はねえさんの頭を引き寄せて、貪るように唇を重ねた。


ねえさんが、好きだ。


安い建前とか理性なんかでは抑えきれない。

僕は全身でねえさんを求めた。

わけもわからなくなるくらい、ただがむしゃらに、ねえさんを抱きしめて、この手でねえさんの肌に触れ、柔らかい部分に舌を這わせた。

今だけなんて言わずに、ずっと僕の腕の中で、僕だけを感じていて欲しい。


ねえさんがいつも安心して笑っているれるように、強くなるから。




カーテンの隙間から射し込む日射しの眩しさに目を覚ました。

随分日が高くなっているのだろう。

僕はゆっくりと目を開く。

夕べ一緒に眠ったはずのねえさんの姿は、そこになかった。


「…ねえさん?」


起き上がり、部屋の中を見回した。

エアコンが冷たい風を吐き出す音と、冷蔵庫のモーター音が微かに響く以外は、何一つ物音がしない。


「ねえさん…いないの…?」


僕の貸した部屋着が、ベッドのそばにきちんとたたまれて置かれていた。

確かにねえさんはここにいたはずなのに、ベッドはもう、ねえさんの体温をすっかり失って冷たくなっている。


「なんで…?なんで何も言わずに出て行っちゃうんだよ…。」







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