可愛い弟の為に
お色直しで一旦退場した瞬間、僕は大きな息を吐いた。
とりあえず、前半はどうにかいけた。



「…ありがとうございました」

くいっと袖を引っ張られた。
桃子さんは僕の袖を少しだけ持ってる。

「あ、いえ。どういたしまして」

桃子さんは俯いたまま、震えている。

「…もう少し、力を抜いてください。
何かあれば僕がフォローします。ね?」

桃子さんはますます下を向いてしまった。



…何か気に障ったかな。



後半は各テーブルに回ったり、二人で色々しなくてはいけなくて桃子さんの表情は硬くなっていく。
桃子さんの高校の友達のテーブルに来たとき、隣で泣きそうになるから

「大丈夫?」

とこっそり耳打ちしたのがマズかった。
友達はそれをラブラブだと勘違いして囃し立てたのだ。

「違うって、本当に違うんだって」

桃子さんは悲壮な顔をして否定すると

「またまた~!!」

と返されていた。

僕は桃子さんの腰を意図的にぐいっと支えて早くテーブルを離れるように促す。
それがまた誤解されて…。
とうとう桃子さんの肘打ちを脇腹に食らった。



披露宴もようやく終わりに近づき、新婦の手紙…。
こんなもん、省略してしまえばよいのに。
無理に生駒家のご両親が入れたみたいだ。

「お父さん、お母さん、そして撫子、今までお世話になりました。
ありがとうございました」

感情のこもっていない声。
周りは緊張しているからとかそんな風に捉えているだろう。

「今日から…」

その妙に長い間は何だ。

「…ふぅ」

ため息!?

「至さんと仲良く暮らしていきたいと思います。
…あ り が とー…ご ざ い ま し…た」

号泣。

本気の号泣。

僕と一緒に暮らすのが本当に嫌だという号泣。
周りは両親、妹と離れたくないという号泣だと思い、もらい泣きをしている。

僕が号泣したい、何度も繰り返すけど、泣きたいのは僕だ。
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