可愛い弟の為に
「あ、寝た」

透は人前で寝る事なんてないのに、話している途中でウトウトして寝てしまった。

免許取って間もない上にロングツーリングともいえる距離を走行してきたのだから当然とも言える。

桃ちゃんは立ち上がると別の部屋に行く。

戻って来た時には手にタオルケット。

それを透にそっと掛けた。

窓から入る夜風が心地よい。



「桃ちゃん」

僕は立ち上がってそっと彼女の手を握る。

初めて自分の意志を持って、その手を握ったかも。

「2階に行かない?」

2階には寝室がある。
今まで一緒にベッドには入った事がないけど。

さっきの言葉が本当なら断らないはず。

桃ちゃんの大きな瞳が僕を捉えた。

硬い表情を見せながらも桃ちゃんはゆっくりと頷いた。

僕は少しだけ手に力を入れる。



階段を上がる時、自分の鼓動が異常に早く感じた。
今まで経験した事がないかも。

それはどうやら桃ちゃんも同じらしく、寝室のドアを閉め、薄明るい柔らかなライトの光でも表情の硬さでその緊張がわかる。

ベッドに腰を掛けると、桃ちゃんの体を抱きしめる。

一見、細く見えるんだけど、付くところにはきちんと付いているんだなあ、肉…。

見た目は本当に幼いけれど、こうすると年齢相応だな。



「至さん…」

緊張して声が掠れてますよ、桃ちゃん。

僕は桃ちゃんを見つめた。

「あの…私、こういうのが初めてで…そのっ…」

口の中で何やらモゴモゴ言ってる。

「…大丈夫だよ、桃ちゃん」

僕はそのまま桃ちゃんの唇に口づけた。

「わからなければ僕が教えるから」

僕のやり方をね。

「…よ、宜しくお願いします、先生」

桃ちゃんに『先生』と言われると何だかねえ。

変な気分。

「こちらこそ、宜しく、高石桃子さん。
何なら白衣、着ましょうか?」

桃ちゃんは顔を真っ赤にして顔を隠した。
< 47 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop