可愛い弟の為に
「いただきます」

「どうぞごゆっくり召し上がってください」

桃ちゃんは透にそう言った。

翌朝は何故か皆、早く起きた。
なんと5時に朝食を取っている。

透は朝まで爆睡で、起こしたら変な声を上げていた。
いつもそんなに寝る事はないという。
そんな自分に驚いていた。

「僕、もう少ししたら出発するね」

「早く帰るのか?」

「ううん、寄るところがある。
今日、サーキットで全日本のレースがあるんだ。
ちょっと観て帰ろうかな、と」

透、もう拓海君は出ていないけど…。

「真由ちゃんの旦那様が出ているんだ」

僕の心の中を読んだのか透はそう答えた。

「…はい?」

ちょっと待て。

拓海君が亡くなったのは去年のクリスマスだぞ。
今、9月だから…。
亡くなって、9か月。
というかお前たちが高校卒業してまだ半年くらいだぞ?

「まあ、その旦那様は拓海のお兄さん存在。
真由ちゃんのこともよく知っている人。
確か兄さんと同い年だったと思う。
…そして真由ちゃんは確かそろそろ出産かなあ」

「はあ?」

僕は茫然としてしまった。
出産?
この時期に出産?

逆算してみよう。
大体40週前は…。

クリスマスか。

「ちょっと、真由ちゃんのお腹の子の父親は…」

「兄さん!」

透の冷たい声が部屋に響いた。

「その辺、医者ならわかるでしょ。察して」

察するも何も、拓海君の子供でしょ?
怖いわ、色々と。



「ねえ、レースってなんのレース?」

何にも空気を読まない桃ちゃんが話をぶった切って、口を開いた。

「バイクのレース」

透が淡々と答える。
僕が真由ちゃんのことを探ったのが嫌だったのか声が冷たい。

「私も行きたい!」

「「は?」」

僕と透の声が重なった。
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