可愛い弟の為に
「…何で?」

しばらくの沈黙の後、桃ちゃんは僕に聞いた。

「僕は桃ちゃんの子供が欲しいという期待には応えられない。
不妊治療という手もあるけど、その身体的・精神的負担は女性が背負わなければいけない。
僕は桃ちゃんをその環境に置きたくないんだ」

桃ちゃんとしばらく見つめ合う。

「それに生駒家でも初孫に大きな期待をしている、と先日、お義父さんにも言われた。
…僕なんかより、若い人と結婚して子供を作った方がいい」

桃ちゃんの急に目が半開きになった。

「勝手に決めないでくれる?」

桃ちゃんは半開きの目のまま、僕の隣にやって来て座った。

「そんな事で別れるなんて冗談じゃない。
私、本気で至さんが好きなのに、他の男を好きになれって言うの?」

そう言って桃ちゃんは僕の腕を数回、叩いた。
ポロポロと涙が溢れている。

「酷いよ、それじゃお父さんと根本大差ないよ」

「…ゴメン」

僕は桃ちゃんを抱きしめる。

「私は至さんと仲良く暮らしていけないなら子供はいらない。
不妊治療をして、ホルモンのバランスが崩れて今の至さんが好きだという感情もなくなってしまうなら、不妊治療も要らない」

僕の腕の中で桃ちゃんは握りこぶしを作って歯を食いしばっている。

「子供より、私達の生活を優先したらダメなの?
跡継ぎなんて、透さんに任せたら良いじゃない!」



…透は結婚しないかもしれないよ?



「ここで血が途絶えたら、生駒も高石もそういう運命なの!
滅んだら良いのよ!
滅んでしまえ〜!」



…高石は本家は別だから途絶えはしないけどね。



「うん、ごめん。前言撤回するよ」

「当たり前です!」



桃ちゃんの平手打ちが僕の頬に入った。

…痛かった。
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