可愛い弟の為に
「何だ、話とは」

次の休日。

僕は両家の両親に高石家へ集まって貰った。

「一つ、お伝えしなければいけないことがあります」

大きく深呼吸をしてから言った。

「僕は無精子症です」

高石の父も生駒の父も一瞬で顔色が変わった。
静まり返る部屋。

「人口受精は?」

僕の父さんが聞いてくる。

「しないです。
桃子さんに負担が掛かりすぎます」

「も…桃子はそれで良いのか?」

お義父さんは倒れそうだった。
そりゃそうだろう。
病院を継いでもらおうと思っている人がこれじゃ。
話にならない。

「はい、至さんと一緒にいることが出来るならそれだけでいいです」

桃ちゃん、心強い言葉、どうもありがとう。

「離婚しようと思いましたが、別れたところで2人とも病んでしまいそうなのでこのまま2人で仲良く暮らしていきます」

僕は桃ちゃんを見つめた。
桃ちゃんも頷いて返してくれる。

「孫なら、撫子に頑張って貰ってください、お父さん、お母さん」

桃ちゃんはすっきりした、という様子だった。

「…二人がそれでいいのなら俺は何も言わない」

父さんはあっさり、引き下がった。
ターゲットを透にシフトしたんだ。
直感で思った。

「…仕方がないですね、残念ですが」

ただ、とお義父さんは続ける。

「病院の件は頼みますよ、至さん。
頼めるのはあなたしかいません、他の人は考えていませんから」

…死亡フラグが立つ。
もう、逃げられないな、完全に。
父さんみたいにずっと勤務医で良かったのに~。
やっても雇われ院長が良かったよ~。
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