可愛い弟の為に
「そうなんだ…」

電話の向こうの透の声が切ない。
その夜、透にもこの件を報告しておいた。
きっとあの父さんのことだ。
透に縁談を大量に持ち込むに違いない。

「兄さん、大丈夫?」

透の優しい声が胸に突き刺さる。
透が学生の時はそれほど思わなかったけれど、場所は違えど同じ土俵で働くようになり、密に連絡を取るようになってから透は変わった気がする。
元々性格が穏やかで優しいのもあるのかもしれないけれど、更に丸くなり本当に小児科が似合うと思う。

「まあ、何とか。
いや、やっぱりショックだけど、ここは何とか耐えないと」

「辛いときは泣いていいんだよ」

そんな優しい声で言うか~
お前~!!そんな事、言ったら本当に泣くぞ!!

「って、よく教授に言われたので、実践したら泣き過ぎと言われた」

「…そう」

そういえば『泣き虫先生』って呼ばれているって言っていたな、確か。

そんな感情の起伏、子供の時は全然見せなかったのに。
ハルちゃんと出会ってからだな。
ハルちゃんの存在があったからこそ、透は小児科を選んだのだろう。

「ところで、透」

「はい」

「彼女は?」

「今はいませんけど」

結局、大学の時に2人ほど付き合ったけど、どれも短期間で別れた、と聞いた。

「本当に気をつけろよ、父さん」

「気を付けるも何も、遠いので今は大丈夫だと思います。
そちらに帰ることがない限り」



一生そこにいるつもりだな。
そのうち大学教授の座でも狙うのか?
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