可愛い弟の為に
朝の回診でようやくハルちゃんの熱が下がり始めたのが確認できた。
明日にでも一度検査をオーダーしてみよう。



「至先生!」

夕方の外来が終わり、内科病棟に向かおうとした時、内科病棟ナース協力者5ゲットのうちの一人が慌てて僕を捕まえる。

「例の患者さんの部屋に男性のお見舞客が!」

何と!!そんな奴がいたのか!!
何だか不穏な空気。

「さっき、透先生が内科前を通って行ったので鉢合わせると思います。
手隙の者が今、病室前で様子を伺っています」

内科病棟ナースは優秀だと思う。
僕が指示を出さなくても何をするべきか、わかっている。

「もうすぐ、僕も病棟に行きます。透が喧嘩しないようにだけ、見張っていてもらえます?」

嬉しそうに協力者1がスキップするような勢いで病棟へ急いで向かう。



透の恋愛話に病院内がにわかに活気づいている。
特に内科・小児科・産婦人科。
その他の科は微妙だけれど。
その辺りでこの病院の各科の温度差がわかる。



「…はあ?」

病室から出てきた透は四方八方に散らばるナース達を後目に、廊下を歩き始める。
良かった、見舞客と喧嘩してないようだ。
…当たり前か。

まあ、ハルちゃんが入院している間は皆、監視するだろうな。






翌朝の回診。

「淡路さん、どうですか?」

体調を聞いてみる。

「はい、おかげさまで…」

ハルちゃんは頭を下げる。

「このままいけば今週中には退院できると思いますよ」

今日の結果ではいい線、行くと思うよ。

「遠い昔の妹といい、私といい、先生には本当にお世話になってしまって」

遠い昔…そうだね。
あの寒い冬の日、か。
透が多分、生まれて初めて僕を頼ってくれた時だ。

「いえいえ、これも何かの『ご縁』でしょうね」

再び、出会うなんてね。
しかも救急外来で、当直で。
受け入れを許可したのは透自身。
こんな事ってないよ。

「…今後もっとそのご縁が深くなるかも」

僕の呟きにハルは目を丸くした。

「えっ?」

「いえいえ、弟の胸のうちを思う兄の独り言なんでお気にならさずに」

僕は意味深な笑みを浮かべて病室を出た。



本当に、上手くいって欲しいよ。
二人は絶対に、一緒にいないといけない存在なんだ。
お互いにね。
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