48歳のお嬢様
ミネラルウォーターを片手に休憩スペースに入ると、
和樹が一組の浴衣のご夫婦とお話し中だった。


「ごめんなさい和樹、やっぱり待たせしてしまったのね…。湯冷めは大丈夫だったかしら?
羽織を重ねて来て正解よね」


「雪恵様、お疲れさまでございました。
私もついさきほど上がりまして、お話していたところでございます。
しっかり暖まりましたのでご心配には及びません。

色々なお湯がありましたでしょう?
また、全部お試しになられたかと…。
薬湯ミストサウナは初物でしたでしょうが、きっとお気に召したのではないかと存じます」


「そうそう。薬湯の霧が充満していて、あれは体に良いわよきっと。
鼻と喉には、確実に効いているわね…。
あー、あー、音域の広いのを一曲いけそうよ?

……こちらの方々もご宿泊?」


「はい、こちらのご夫婦は銀婚式の記念にご旅行中だそうで、
本館に今晩一泊して次へ行かれるご予定だそうでございます」


「まあ!何て素敵なんでしょう……。
25年ですの?
記念にご旅行だなんて、仲がおよろしくていらっしゃるのですね」


「ありがとうございます。
あなた方ご夫婦も、もしかしたら同じくらいの年数じゃないですか?」


「いえいえ私どもは、暮らしている年数こそ35年も経っていますが、夫婦ではありませんのよ?」


「あら…結婚しない事情があるんですね、少し他人行儀な感じの会話だとは思ったけど…ごめんなさいね」


「事情……は特にごさいませんのよ?ね、和樹」


「はい……さようでございますね」


「え?事情がないのにそんなに長い間?
内縁って、奥様があとあと不利だとか…。
御主人、籍は入れておいてあげた方がいいですよ?」


「おい、お前それは失礼なお節介というものだろう?
すみません、家内は世話好きが過ぎまして……」


「いいえ、どうぞお気になさらず。
しかし、主人は私ではございませんし、私どもは内縁という関係でもないのでございます」


「……ぶっ!
和樹、また誤解されてしまったわね。

失礼しましたわ。
知らない所へ行くと、こういう誤解をよく受けますの。

私が10代の頃から彼は私の執事を勤めてくれていますのよ」


「まぁ!ごめんなさい。
仲の良いご夫婦に見えてしまったので、てっきり…」


こういうことは、なぜか良くあることなのだった。





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