尽くしたいと思うのは、
◆真実の感情




「はぁ」



空を見あげながらこぼした、俺の大きなため息にちらりと目をやった浅田は同じように空を見あげた。9月の空の下はまだ日差しがきつく、俺を責めるようにじりじりと焦がしてくる。



俺と浅田は久しぶりに昼頃の外回りがなく、コンビニで調達してきたパンや弁当を片手にぼんやりとしていた。いつもなら休憩室で食べるんだけど、今日はできそうもない。

だって、いつもあそこには水瀬ちゃんたちがいるから。



俺が水瀬ちゃんを傷つけたのは、2日前の土曜日のこと。飲みに連れ出した彼女をつぶしてしまい、そのまま自分の部屋に連れこんだ。

さすがに手は出していないけど、年下の女の子に酒を飲ませてお持ち帰り、なんてやらかした自覚はある。そのうえ、水瀬ちゃんが傷つくとわかっていることを口にしたんだ。あわす顔がない。



「加地」



今朝からほとんど言葉を発していなかった浅田が俺の名前を呼ぶ。ぴりっとした声色にびくりと肩を揺らしつつも平静を装い、なに? と返した。

だけど俺の性格をよく知る浅田には効果はなし。誤魔化そうとするな、と話を切られる。



「この前の俺と水瀬の話を聞いていただろう?」

「えーっと」

「だから水瀬を誘った。そのくせ傷つけた。
……なにか違うところはあったか?」



もう1度ため息をこぼす。ないですよ、と投げやりに返した。



立ち聞きしてしまったのは、偶然。

水瀬ちゃんがコピー機を使おうとしていたはずなのにその場にいなくなっていたから、きっとコピー用紙の補充をしようと思ったんだろうと。彼女の考えがよめたから手伝おう、と足を向けた先には浅田もいたんだ。



そして、浅田が水瀬ちゃんをデートに誘っていることを知ってしまった。



浅田が動き出したことに俺は無性に焦りを抱いて、あいつとすれ違って立ち聞きがばれたというのに水瀬ちゃんに声をかけて。すぐに知られるとわかっていながら、俺も彼女を誘った。

ずるい俺は水瀬ちゃん来るか、どう反応するかを見て、彼女の想いを確認したんだ。






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