君が好きになるまで、好きでいていいですか?

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「8時半か………思いのほか遅くなったなぁ。このまま直帰するか、会社に戻る必要もないだろ」


そう言って、後藤とその部下は出先の帰りその場で別れた。

一緒にいたその部下は、最近結婚したばかりで、直帰と聞いてすぐに嬉しそうに帰って行った。

「結婚かぁ………」

駅に走って向かう彼に気を使って、近くのコンビニエンスに入った


弁当でも買って帰るかと、コーナーに視線を向けると見覚えのある男を見つけた。


「…………」


女と手を絡ませて繋ぎながら菓子パンを物色中の二人
いかにも、同棲中のカップルに見えるが


前に、沢村万由を居酒屋まで迎えにきたあの男だ

間違えない。あの時ハッキリ近くで目を合わせたから覚えている


…………なんだ? あいつ
沢村さんと付き合ってんじゃないのか?


思わずジッと見つめると、その男が後藤の視線に気がついて、明らかにギョッとした表情を見せた


「どうも」

二度ほど顔を合わせたことがあるんだからと、声をかけた


「慧斗、知り合い?」

隣にいる女がそう言って男の顔を覗き込む


『慧斗』………やっぱりそうだ、確か木原さんが言ってた沢村さんの幼馴染みの名前


「行こう………」

慧斗が女の手を引いて、その場を立ち去っていった。



「…………………」

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