それでも君を愛せて良かった
僕は店を出ると、今度は古着屋をのぞいた。
だけど、ファビエンヌに似合いそうなドレスはなかなかみつからなかった。
何軒かの古着屋をのぞいたけど、どれもサイズが合いそうになかったり、ファビエンヌの雰囲気に合わないものばかりだった。



(あ……)



どうしようかと思いながら商店街を歩いているうちに、僕はふとのぞいた小物屋の棚に口紅があるのをみつけた。
繊細な細工のされたそのケースも僕の目を引いた。
口紅の色は鮮やかだけれど、下品ではない赤だ。
これでファビエンヌの唇を彩って上げたら、彼女はきっと喜んでくれると思った。
彼女はきっと元々はこんなつややかな赤い唇をしていたんだと思う。
それが長い年月を重ねるうちにあんな風に色褪せてしまったんだ。



僕は思わず店に飛びこみ、その口紅を購入していた。
彼女の唇が昔のように明るく美しい色に戻る様を想像すると、僕はそれだけで胸がはちきれそうな想いだった。



すぐにでも帰りたい気持ちはあったけど、そうにもいかない。
僕は診療所に行って、診察を受けた。
もちろん、特に悪い所などみつからず、先生には父さんあてにその旨を手紙に書いてもらった。



(ファビエンヌ、今から帰るからね。)

昼食を採っていないことでおなかはすいていたけれど、一刻も早く家に戻りたかった僕は、そのまま街道に駆け出した。
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