それでも君を愛せて良かった




「えっ!それは本当なのか!」

「こんなこと、嘘言う筈がないだろ。」

「そうか…そうだったのか…」



兄さんがここへ帰って来たのは、結婚の報告をするためだった。
なんでも、相手は兄さんが働いている貿易会社の社長の娘だということだった。



「それにしても、ケイン。
なぜ、婚約者を連れて来なかったんだ?」

「父さん、ミッシェルの家はものすごい豪邸なんだぜ。
見栄を張るわけじゃないけど、とてもこんな所には…」

「……おまえは相変わらずだな……」

父さんは、眉間に皺を寄せ、兄さんを冷たく一瞥した。
僕の家は確かにそんなに大きくもなければ、立派な家でもないけど、取りたててオンボロでも狭苦しいわけでもない。
誰かを招いて恥ずかしい想いをするような家というわけでもないのに…



「ま、そんなわけだから、式の前日、二人には家に来てほしいんだ。
何も準備することはない。
礼服もこっちで用意するからな。」

「礼服くらい、おまえに用意してもらわなくとも私もアベルももっている。」

「父さん…礼服なんてものは、一着もってりゃあ一生使えるってもんじゃないんだぜ。
そういう風に考えてるのは田舎者だけだ。
礼服にもちゃんと流行りみたいなものがあって…」

「私は田舎者だから、自分の礼服を持って行く。」

父さんと兄さんは元々どちらかというと、気が合わなかった。
兄さんは僕とは違い、父さんに気を遣うことなく言いたいことをずばずば言う性分だからそれも仕方ないことなんだけど。



「父さん…兄さんのおめでたい日なんだから、そんなこと言わないで。
こんなことでもめたら…母さんだってきっと天国で悲しむよ。
礼服なんてどうだって良いじゃない。
兄さんの言う通りにしてあげようよ。」

「アベル…おまえは本当に良い子だな。」

兄さんは、僕の頭を子供の頃と同じようにくしゃくしゃとなでまわした。
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