それでも君を愛せて良かった




「アベル、ちょっと酒でも飲まないか?」

「でも、兄さん…僕、お酒はあんまり…」

「良いから、良いから。」



その晩、夕食が済んでから、兄さんは僕にそんなことを言って引き止めた。
兄さんは、友達も結婚式に呼ぶつもりらしく、その連絡のために、数日、ここに滞在するということだった。
僕は、ファビエンヌの所に行きたかったのだけど、めったに戻って来ない兄さんにそう冷たくするわけにも行かず、少しだけ兄さんにつきあうことにした。



「アベル…おまえがいてくれて良かったよ。
父さんの跡を継いでくれて本当に良かった。
俺はこういう細かい仕事は苦手だし、昔から父さんとはいまひとつ気があわないからな。
おまえにばっかりいやなことを押し付けて悪いとは思ってるんだが…」

「兄さん、僕はこの仕事が好きなんだ。
それに、父さんと一緒に暮らすのもちっともいやじゃないんだよ。
何も無理してやってるわけじゃないんだ。」

「でも、こんな田舎町、退屈だろう?
それに…この町には若い女の子もほとんどいないんじゃないか?
俺が住んでた頃よりもなんだかさらに人が少なくなってるような気がしたぞ。
おまえ……たまには隣町に遊びに行ったりしてるのか?」

「遊びにっていうか…たまに材料が足りなくなった時に買いに行く事はあるよ。」

「馬鹿、俺が言ってる遊びっていうのはそういうことじゃなくて、女のことだよ。」

「ぼ…僕はそんなこと…!」

兄さんの言う意味がわかって、僕は急に頭に血が上るのを感じた。
僕が愛しているのはファビエンヌだけだ。
他の女なんて、全く興味がない。



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