それでも君を愛せて良かった
「ア…アベル……な、なんてことだ……」



砕けたファビエンヌの残骸に守られるようにして、その中央には一体の人形が座っていた。
哀しみに満ちた瞳をした人形が…



「う……嘘だ!嘘だ!
そ、そんな…そんな馬鹿なことがあるはずないっ……!」

ケインは大きく目を見開き、震える足が小さく後ずさった。



「アベル……」

「父さん!何を言ってるんだ!
これは人形だ!
アベルなんかじゃない!」

「……ケイン…私にはわかるんだ…
これはアベルだ…
信じられないことだが、これはアベルなんだ…!」



キースは人形の手を掴んでケインの方へ差し出した。
人形の薬指には見覚えのある青い石の指輪がおさまっていた。



「そ、その指輪…!
だ…だけど…だけど、それは…」

混乱するケインとは違い、キースはその人形がアベルであることを確信していた。
たとえ、その指に青い指輪がさされてなかったとしても、キースには直感的にそのことがわかっていた。
そこにいるのがただの人形ではなく、アベルだということが…



「アベル…すまなかった。
おまえがそこまで真剣にあの人形のことを愛していたなんて…
私は、ただ、おまえを救いたい一心で…
ああすることが正しいことだと…私はそう信じて…
あぁ、なんてことだ…
私は、おまえの気持ちを考えていなかった…
すまなかった…本当にすまなかった…
許してくれ……アベル…アベルーーー!」



キースは人形を抱き締め、涙を流して絶叫した。



けれど、砕かれて粉々になった心は…もう二度と元には戻らない…
どれほど泣いても…
どれほど悔やんでも…もう二度と……



アベルだった人形にはもうぬくもりは感じられない…
砕け散った心と同様…固く、冷たく…
その瞳が、明るく輝くことは、もう二度とないのだ…





~fin
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