パンプスとスニーカー
 ひまりが連れて行かれたのは、ヒルズでも人気だというイタリアンレストラン。


 お坊ちゃまな武尊のことだ。


 彼の祖母や姉との初顔合わせの場だった、レストランのように肩肘を張るような堅苦しいレストランなのでは、と内心で心配していたひまりだったが、杞憂だったようでそれほど緊張しなくても大丈夫なレストランだった。



 オシャレな街に相応しく洗練されていて、さすがに庶民的とは言い難いが、意外にリーズナブルな値段帯の料理もあって、女友達や彼氏と少し特別な休日を過ごすのにぴったりなお店。


 美味しく食事を終えて、エスコートされるままに、今出てきたばかりのレストランの味や内装はどうだったと道すがら話しながら歩く。


 いつも一緒に過ごしている大学の図書館や、武尊のマンションでの二人とは少しだけ違う互いの雰囲気と話題を楽しんで、微笑みを交わし合う。




 「あの店って西麻布が本店なんだけど、いつも予約いっぱいで予約がなかなかとれないんだよね。食通の間では、けっこう知られたとこでさ」

 「へぇ!そうなんだぁ。ホント、美味しかった。お店も素敵だったけど、お料理の見た目も凄い綺麗で、スパゲッティにフルーツが入ってるとか凄いびっくりした」

 「今の時期だから苺だったけど、初夏はサクランボ、秋近くになると桃だったかな」

 「ええ~、いいなあぁ」




 見た目に美しく、つい注文してしまったが、実は内心味の方は期待していなかった。 

 しかし、さすがに西麻布や六本木、食文化の坩堝とも言える激戦区で名店と言われる店だ。


 納得の味わいだった。


 …フルーツってスィーツにだけ使われるんじゃないんだぁ。


 素直な気持ちそのままを口にするひまりに、武尊も柔らかい笑みが溢れる。


 一度馴染めば、普段の冷たさが拭われて、あんがい人懐っこい一面が覗く男だが、ひまりの目にも今日の武尊は本当に楽しそうだ。



 「苺のも美味しかったけど、桃とかサクランボのも凄く美味しそうだよね」

 「いいよ、またその時期になったら、食べに行こ?」

 「…うん」




 美味しいものを食べて、お腹がいっぱいになって、繋いだ手の温もりが嬉しくて…。


 楽しさや幸せな気持ちに微笑み合い…それがまた嬉しさの相乗効果になる。




 「武尊、お店のメニューに詳しかったね。…調べて来てくれたの?」




 あれこれとひまりに勧めてくれる武尊の言動にはよどみがなく、初めて訪れたという感じではなかった。


 …以前のカノジョの誰かと来たのかな。




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